五月の貴公子
深田 葵
輪。輪と輪にまた銀色の輪で連なる、ひかる、金属音。
チェーン、を静かに、けれど微かにやはり金属音。密やかに、メロウの僕。解かれてく。
開かれる、一葉の銀塩写真のうえの、宇宙。ああ、
Red
dwarf
から軌道を逸れてゆく弧の美しさ、白馬を駆っている、
鬣に撫ぜられる僕という曖昧な揺らぎが
貴公子の心づもり、いつもベガを想っている。瞬いていたなら、いろ、と祈る。捧げるように。信仰だ。
森、森が。白くざわめく、星。
樹木は白墨で描かれているから指で拭うと背景が透き通るよ、沈着しきった青さ。
かなしみに塗られた絵画、のような写真、
そこにある宇宙をひとつ、シーツの波に隠すのだろう。今にも誰かが。白い、白くて。
た易い。シーツ、
白馬を駆る僕は五月の貴公子。
貴公子、そんな、詩、をもう憶えてはいない、ただ、お嬢さん!
くちづけで、あたらしいカクテルを生むという事象に恍惚としているこの頬、に電子。
電子。電子に、
ささやか、それとも微か、な旋律が立ち上がり、爆ぜながら素肌を刺激している。お嬢さん!
緑線の楽譜、繰り返し繰り返し、打つだけの旋律、アタッカ。
この心臓を描いたのは
クセナキスだよ。
ああ、好きでくちずさむ童謡に神は泣いていたから、黄色い涙。それから赤い涙。
それらが浮遊する、
ここは宇宙。
いまもその一つを舌の上で転がしている、甘い。ドロップの優しみをこころに
併し燻るcigarette、それから麦酒を。
気泡さ。気泡のように揺らぐ、揺らぐ僕を、電子。電子たちは隆起させ
僕はこういう気分で、五月の貴公子。そんな詩をもう憶えてはいない、けれど、お嬢さん!
僕にくちづけておやりなさい!お嬢さん!
白馬を駆っている、駆っている、蹄にかけられ殺されてゆく、宇宙。閃光。ああ!落馬!
貴公子をうち落した敬虔な遮断機に絡まる明緑、唄。
その唄は曲線のようでいて直線で絡まる、というレアリズムさで花を咲かせる。赤い花。
赤い花
赤い花
赤い花
赤い花
花弁のうえにちらちらと光沢の微細さ、それらはひとつひとつ星だね、
けれどもそれを尊ばない極まれるレアリズムだ!レアリズムだ!そう、お嬢さん!
僕にくちづけておやりなさい!お嬢さん!はやく!
閉じる。
終末、の凱旋だ!
ああ、その前に、くちづけを!
ベガが、あ。と呟く間にもう閉じる。宇宙だ。
輪と、輪、円を描く銀色の輪の連なり、チェーンの金属音が密やかに落ちて。閉ざされる、恋愛だ。