「ヒーローが僕を助けに来ない」



アイボリーのフレア膝で揺らして平静を装うのが巧い女の子みたいな僕は金曜日を悪者のこころで過ごす。月曜日からいまこの瞬間までがいつもそんなこころ、悪者だから指名手配のルポタージュが街の彼方此方に貼ってある、電柱、街路樹、ボランティアで棄て猫の為の募金を募る動物愛護団体の青年の顔面、行き交う車のフロントガラス、バックミラー、ハプニングバーのキャッチの男の全身。性器とかだよ。綺麗な服を着て上手に化粧をした女やミニスカートが可愛い女の子たちだけが僕を貼られていない。なんて美しいの!なんて可愛いの!僕とデートしよう!僕はアニメのヒーローのお面を付けて女や女の子たちの中に巧く溶け込んでいる、お化粧は出来ないけれどねえ僕はけれど悪者に光る光線のようなものを発射するヒーローごっこをするのは得意だからお面をつけたらもうヒーローそのもの、子供達に強請られて握手をする、必殺の型を真似てみせる、ヒーローそのもののように人々に拍手喝采を受ける僕は悪者のこころで社会人の金曜日を終える、タイムカードに打刻の音。それがほんとうの僕の生まれる音、産声代わりに月曜日から金曜日に為した悪事の全てを購う懺悔の慟哭。嗚呼!神様一刻も早く僕を殺してください。僕が僕であるうちに僕を殺してください。僕を殺してください。僕を殺してください。殺してください。神様は此処にいないから(何処にいるの、ねえ)僕は僕を処刑台へ連れてゆく、横断歩道の階段を昇れ。段数は13じゃないけど十分に死に至るに足りるよキエルケゴール。月曜日からさっきまではまるで彼の筆致のようだよ、綿密に難解に僕の罪が綴られている。黒インキの道程を僕は嘆く。僕は正義のこころで僕に鉄槌を下すが如く街灯に貼ってある僕のルポタージュを切り裂く。僕の手からはひかるなにかは出ないし眼からビームも出ない、かっこいい銃も持っていないんだ、握り締めているのは安物のライター、それだけだよ。だから僕はいま破いた僕に火を点ける、ささやかな業火に焼かれろ僕。神様は居ないから天国は無いから地獄も無いから今此処であまりにもささやかな煉獄の炎に焼かれろ僕。世界に月曜日が来なかったら僕は永遠正義のヒーロー。僕の労働による血税で作られる戦争の為の重機はフォークだよ。柔らかいプディングの平和が其れに蹂躙されているんだ毎日。太陽の慈愛に満ちたブランデー薫るプディングの死!ああ、スプーンならまだ良かったのか、どちらもかわりないのか否か。街中の僕を僕は死刑執行してまわる、そんな土曜日。日曜日はあのアニメがあるから安らかに過ごしたいよと祈っている。神様のいない世界、日曜日にだけ本物のヒーローは現れる。ねえあなた、僕を助けて。僕が僕であるうちに、月曜日が来ないうちに、ねえ!ヒーローの為にコロナビールを冷やしてある冷蔵庫、それに磁石で貼られているのはどこかの無名詩人の恋愛のような詩だよ。