「獣の晩餐」
電気代が勿体無いからと、夜になるまで部屋の照明を点けることを禁じられている。夕刻にもなると、部屋のあちこちに翳りが現れそれはそのまま闇へと育ってゆく。
時計の短針は六時を過ぎようとしていた。
この陰気な部屋に明かりといったら僕の頬を照らすパソコンのモニター以外は幽かな夕暮れの名残があるだけで、僕は薄暗さの中で背を丸めて白い錠剤やモニター上の詩句と向かい合っている。
静寂の中で一定の時間おきに列車が走ってゆく音が聴こえる。中に乗っている人間は、朝と昼からなる健全な日常を経ていま夜に向かって列車に揺られている。僕は学校に行っていない。だからそのような日常を送ったことがない。僕は六畳間の小さな部屋で身寄りの無い一匹の孤独な獣とし息を潜めている。
パソコンデスクの椅子に両足を抱えて蹲る僕は、時折右手でキィを叩きながら毎日何千何百と溢れててくる人間の詩というものを読んでいる。そうして探している。今夜の糧をより美味にするためのスパイスを。いい詩を書く人間の詩句は肉を美味にする風味付けになるからだ。僕に与えられる不味い糧に少しばかりの風味をつけて僕の舌を満足させてくれる詩句を僕は求めている。
僕はもう長い間、毎夜同じものばかりを食べ続けている。それは精神を病んだ女の屍肉で、柔らかくはあるが美味ではない。だからスパイスが必要なのだ。風味を、少しでも良くするために。
女の肉は寝台の上に横たわっている。もう随分この女を食してきたが、女の肉は減ることも腐敗もすることもなく、形状も殆どが生きていた頃そのままに保たれている。夕暮れの薄明かりが窓辺の寝台の上の女の裸体を照らしている。
昨夜肉を切り取った後、白い腹に突き刺しておいた肉切り包丁を引き抜き僕は今夜の糧を切り出す。白い皿の上に女の太腿の肉を切り分けた。今日は、生を賛美する詩人の詩句をソースとして食そうと思っている。
ナイフもフォークも使わずに僕は手掴みで女の肉を食べる。不味い。不味いが喰わねば生きてゆけない。生を賛美する詩句、というものは粘りのある油のようで歯の一本一本、舌と咽、食道と胃に纏わると気怠い不快を齎した。やめとけばよかったと思ったのはこの浅ましい食事が半分ほども進んでからだった。
――もう喰えない。
余った肉をうっちゃると、部屋にはもう闇が満ちていた。夜になった、というわけだが僕は部屋の照明を点さなかった。
寝台に横たわる女の、もともと抉れていた内臓や、今日僕によって切り取られた太腿の部分には一向に関心を示さず、僕は寝台に横たわる女を屍姦した。オーガズムに達する時、僕は雄たけびをあげた。自分でも自覚した。もうそれは人間のそれではないな、ということを。
夜が、パソコンの電子音だけを際立たせて深さを増してゆく。