「こぼれてく色々のきみにさよなら」
ぬれた両方の手のひらから
こぼれそうなくらいの色々がきみで
円い
きらきらした真夏の色
マットがかっているのは
波に削られたから
ながいながいあいだ
削られたからだね
おいで
おいで、
サンダルのきれいな花は千切れちゃった
ぼくら
すこしかなしい顔して
それを海にとかして色づいた指さきを
きれいだねっていいながら
あるいてる
あるいてる
今年はじめてだいすきになれた
走り去る真夏っていうぜんぶの後ろ
ついてくように
あるいてる
あるいてる
ちいさな
やわらかいいきものみたいだね
ながいながい砂浜が濡れているのはどうして、
バナナのなる木を
ほんとうに見たことがないきみに
ぼくのこの目玉あげるね、
二つあるからいいよ
なにもあんまりみえないけど
あの木は背がたかいから
よくみえる
たかいたかいところにあるものほど
よくみえる
だから
星がすき虹がすき
きみがすき
ここは
戦争があったから
砂浜はたくさんの血をすっているよ
プラスチック爆弾は
アーモンドのにおいチョコレートのあじ
ぼくの両腕と
首からながれていった赤血球は
うるうると
ぼやけた音で鳴る
動脈の音がにぎやかなのはきみがすきだから
静脈の音がやさしいのはきみがすきだから
ながいながい戦争のあとに
かかってきた電話で
きみがわらっていたから
たのしそうにわらっていたから
還元された音楽におどる酸素はとてもあまくて
ぼくのいくつもの死体は
冥福をしっている
だから
ぼくらはみんな輪になっておどる
砂浜にあしあとがいくつもあって
ほら、
ぜんぶぼくのあしあとだよ
たくさんの足のうらで感じているんだ
ながいながい砂浜が濡れているのはどうして、
蝉のぬけがらは
ポケットのなかでつぶれちゃって
ごめんね、
さよなら、さよなら、って風にのせる
あわ立つ青は咽喉へ
にじむピンクは網膜へ
ゆれる黄緑は鼓膜へ
うずをまく紫は肺胞へ
きみはきっと大事な左心房あたりへ
真夏がぼくらに色をそえて
いじわるにおいてきぼりの涙をのこすよ
いじわるなのはまるできみみたい
きみのいじわるはいつだってかわいい
きみはいつだってかわいい
だから
ぼくは心臓をひらくよ
きみはその右と左
どちらにしようかなって指をゆらして歌うようにかんがえる
人間だから
確率的にじゃあ左の方でってきみはわらう
うん左だねってぼくもわらう
かわいいきみ
おいで
そして
ゆっくりおやすみ
ぼくのここはあたたかいでしょう
ぼくのここはやわらかいでしょう
しあわせな夢と、
しあわせな今のどっちもみることができる
その目玉は
宝物にしてもっていて
この真夏が
世界の何処にも
なくなってしまっても
ああ
もう
それでもまだ8月なのにこんなにさむいのはどうしてなの、
海からぼくにうちふぶく風がとてもつめたくて
つめたくてまるでかなしいみたい
ながいながい砂浜に
ぼくとぼくとぼくと
それから
ぼくがいて
真夏ってゆうぜんぶの後ろ
ついてくようにあるいてる
今年はじめてすきになれたんだ
今年はじめてすきになれたんだ
ぬれた両方の手のひらから
こぼれそうなくらいの色々のきみが
やさしくこぼれてく
ねえ真夏
ながいながい砂浜が濡れているのはどうして、
どうして、
そして
さようならうつくしい真夏