「>>PLOJECT POLYPHON」
10
白昼にただ一つの存在のように浮ぶ衛星が
泣いている
プロジェクト・ポリフォン
泣き声が
少女の円い歯に弾かれて鳴る金属音で
真空に
よく馴染む
衛星のベッド・プレートで踊る彼女の
波打つ白いスカートの裾で
明るい色の魚たちが詩を産卵する
真夏だから
軽やかな布
やわらかい花びらのような
あれに
名前をつけるなら
09
持ってきたのは
ビール
あと
ピースだけだよ
くゆるインフィニティで
宇宙に安息が齎されているという錯覚を
結びもする
真夏だから
真空に花も咲く
打ち上げたそれは
ミルキー・ウェイに映り込むのが上手い
咲き乱れる花の下で
両腕を広げて
渡り鳥が降りてくるのを何秒も待っている
つまり
そう待ってはいない
08
宇宙科学者が
0.003-0.35 g/cm3の僕を打ち上げた理由は
愛の証明に他ならない
未知の余白に漂うものはやはり愛だったと
人類は知りたい
飛びぬけてロマンチストなのは
研究室に棲んでいた詩人
彼女の手のひらのなかのシャーレで
僕はやさしい詩の朗読を聞いた
お元気ですか
太陽系は
あの星を失って
少し
寂しげに見えますが
あなたは
07
腕の中で美しく発光して凝固した渡り鳥は
甘い
内緒だけれど
嘴をあげる
ほら
砂糖菓子だ
結晶がきらきらひかる
綺麗だね
ビールより紅茶がいいかい
セブンスターを置いてきたから
僕は落ち着かない
ラウドで
流れるものを跳ね上げては絶叫したり
小僧かい
ピアノは
subsidiaryなものかい
主旋律を
僕はやっているつもりで
やっているつもりなだけの
やはり小僧かい
メロンソーダだけでも生きていけると思ってはいる
06
衛星の心臓部に組み込まれた歯車は
敬虔に廻る
手回しで
彼女の望む速度で
衛星は泣く
ディスクに錆が伝播しやすいのは
地球で愛が伝播しやすいのと同じだと言いながら
彼女は丁寧な手つきで
ディスクを磨く
甘いものを食べたら
歯を磨くのと同じだと言いながら
彼女は丁寧な手つきで
ディスクを磨く
彼女の円い歯で弾かれるピンの音が
衛星の泣き声
金属音とピアノは
よく馴染む
05
タッシェンの絵の具で衛星に落書きをしている
花や
花や
花や
動物
魚や昆虫
懐かしい石橋のある風景
そしてあなたを描いたら
本当の星になる
色彩はひかりを表現する手段だと物理学者は言う
宇宙にはやはり
こんなにもひかりがあると
僕が塗る
黄色や薄水色やオレンジや
色々の色
それを
愛と感じるかは
自由だよ
04
いまもディスクに記録されていっている
僕という実験の詩を聴いて
あなたは
四年ぐらい前に流行ったエモやポップパンクを掻き集めて
コンピレーション・アルバムを作るよと言う
キラーチューンばかりで
衛星の悲哀を掻き消してしまうそれは
きっと僕の愛聴盤になって
この夏が過ぎても
廻り続ける
虹色が
ほら
03
手回しの
その取っ手に手を掛けて
やさしく廻している
キスをしたら
臆病になるのと同じだと言いながら
彼女はやさしい手つきで
衛星を鳴らす
白昼にただ一つの存在のように浮ぶ衛星が
何とも交わらない軌道の上で
真昼の白い月を
ただ
見つめている
その表情が主旋律になっているようです
愛を証明しようにも
僕はまたとなく
小僧です
02
地球で生産された叙情の衛星が
泣いている
プロジェクト・ポリフォン
宇宙科学者が
銘板に刻んだ天使は福音を告げる天使
ダークマターは愛そのものだったと
人類は知りたい
宇宙に打ち上げる全ての衛星のシンボルが天使や女神
この音は
詩は
天の響きだと
人類は思いたい
飽くこともなく空を見上げ耳を澄ます生き物が
人類
01
オルゴールを廻す少女
衛星は
明日笑う
真夏だから
軽やかな布
やわらかい花びらのような幸福に名前をつけて
詩句の一つにして
綺麗に鳴る
00
そして
聴こえるかい?
感じるかい?
宇宙
それから、愛
プロジェクト・ポリフォン
真空にひとつ
浮んでいる