a fingerprint;



薄い膜が、
照明の光を受けて
弛んでいる、弧を描いて、触れると指紋が明確に 誰の 指。

幾重もの曲線、曲線、その指紋から漣が聴こえる、伝わってくる、響いて。
銀色の月に 時折、ひかる
ちいさく寄せて返し、排水溝の闇に還る泡、泡、泡に、
消したかったあなたを溶かしてゆく作業を
まる一夜。

まるで憂鬱な
折れた画家の筆で
やわらかい夜の肌理を、潰して、潰して、台無しにしてしまう。
呼吸の出来ない夜に埋没して、
流れ出さぬ侭に窒息してしまう、して、しまいそう、
蔓延ったカドニウムレッドが、子供のように残酷に 鮮やかに発色している。発色。

転がり落ちた筆から飛び散って、赤に汚される僕の白い喉。窒息、する。

やわい爪で引掻いて、容易く破れた皮膜から、やっと流れ出す
奔流、激しさに揉まれ、激しく溢れ出してゆく熱情、

生きる。
生きる。
生きる、という熱情。

止め処無い流れに、触れて、もう一度触れて。熱い、熱いと感じる 誰の 指。

静物、脱ぎ捨てられたワンピースの上に、
寡黙にある熟れた2,3の果実の夢、に
突き刺さる、のは産声のような咆哮、咆哮のような産声 誰の 僕の。

産声の鋭さが空気を裂く、古い光電管のなかでフィラメントが爆ぜる。
闇が一散に降りる浴室。
に、水、 

水の撥ねる、音。

希求する、触れられることを、
曖昧で不確かな輪郭をなぞって、なぞって
なぞって、銀色の月に 照る なまなましい線を与える。誰の あなたの、指。

かたちを得て、僕は生まれ、
もう揺らがない指先を、誰の あなたの、頬に添えたい。

浮かび上がる、僕の指紋の、漣。
漣を、聴いて。

聴いて。