五月を渡る種子



丁寧な丁寧なあなたの手の所作、慈しむその手の白さは、太陽の。
かたく結ばれている透明な悲哀、又は拳が、
あなたの指先の囁きに応えひらかれてゆく。
微かに、
羊水に生まれる流れを肌に感じ僕は種子の面持ちでうつろう。

山々の稜線から励起された緑青がゆるやかに街に溢れるなかに
かなしく、やはり透明のように稚魚たちは、
染まる、染まるあなたを求め、
ひかる水面を泳ぎ始める。
みな、玉になって、踊るように賑やかに。僕もまた。

掬うその掌の椀のなかであなたが眼差しをおきそれらに与える色を、
早く。摘んできておくれ。
吹き零れているよ、輝度高く、それは躑躅や山吹や連翹をして、
吹き零れているのだ。
赤や黄の類のすべては花弁の一片、一片に
それらは麗らかさばかりの無音に浮遊していたけれど、
ささやかな呼気に触れると素直に滲みいったのです。
早く。それらを摘んできておくれ。

五月の静けさの辺において眼蓋を持ち上る。
眩しい、と、
あなたを見ているときはいつもこのように目を細めています。
眼蓋の裏は長い夜の名残、
この紫はちょうどあなたの裾野に揺れる菫のような色です。と
そう云うことをまず話したい。

ずっと僕とともに黒くあり詩を啄んだ鴉は
あなたに背を撫ぜらると羽根を広げ、もうあの峰のむこうへ飛んでいった。
薄みずに溶けいるあの力強い羽ばたきに、
虹の光沢が遊ぶのを、僕は嬉しく見た。
一本落ちて未だ此処にある濡れた羽根にもまた、虹の。

稚魚たちは、僕は、
溢れかえる色彩のなかで色を求め流れ、染まることを望みながら流れ
やがて国道2号線の隘路にとらわれると、
渦になってそこらに円を描く。
歩道橋の上に佇むあなたが眼下の渦に
五月から抽出した色彩を一滴、また一滴と落として
やっと薄っすらと色を帯びる稚魚たちは、僕は、次に
もうそこから臨めるあの海に、あの空に、流れたいと望むのです。

世界、の糸口を解く、
丁寧な丁寧なあなたの手の所作、慈しむその手の白さは、太陽の。
隘路から流れ出して、
ああ、みんな、明るく咲いて五月を渡る。

あまりにも淡く、淡く、
不確かな色彩に身を包んで僕というのは本当に淡い。
世界の、あまりの眩しさに目を細めて
この紫はちょうどあなたの裾野に揺れる菫のような色です。と、
僕がちいさく呟くのを、

あなた、

あなたは聞くだろうか。


(弧を重ねて硬質のこころで貝の類は押し黙りながら波に撫ぜられている。)