あの花は、秋桜。
憂う長き夜に絹糸の如き雨が。降る、
きっとやわらかな曲線で白い背の華奢に流れ揺れる亜麻色の髪、
揺れ、揺れて
眠れずの嘆きをたれにかなしむか、少女、
硬質なシーツの漣に
透過しゆく水滴の一雫、また一雫に名をつけてゆくのもよかろう。
かような長き夜に僕になにをか希うというのならば、少女、
ともに虫々の音を手繰り、
其のうつくしい髪に編み込んでゆこう。
指で梳るお前の髪は、少女、
少女が愛する舶来人形の其れだ
お前は頷くのだろう
人形のような少女、お前の人形のかなしみが僕の憂いに翳りを重ね
雨音がまるで暈けるようだ
舶来の、笑わずの人形の頬の輪郭、
其のつめたい陶器の手触りに、僕もまたかなしむ。
雨に打たれる、あすこの花がゆっくりと雫を垂らす、
あれはたれの涙だろうね
絹糸の如き雨を手もて奏でるこの銀色の音も少女、ともに編み込もう。
丁寧に、丁寧に
其の亜麻色の髪に結わえてゆく音々は、秋だよ。
少女、硝子玉のその円過ぎるまなこには
何も映らないのだろう、夜ゆえに。
けれど、少女。外はもう秋なのだ。
お前の見えぬあすこの花の花弁からとき解いた繊維の静寂も、
丁寧に紡ぎ編み込もう、少女。
かように僕たちは愛を啄ばむ雄鳥と雌鳥の営みを真似るのだ、
少女、これはお前と僕というつがいの夜鳥による
かなしい憂いに於ける余興ではあるが
お前が淡くも笑うならば
少女。僕の羽根の彩も、お前は全て其の髪にのせるといい。
嗚呼、全て、
僕は色彩を全て失っても、いいだろう。
だから笑え
笑いたまえ、少女。
少女、お前は淡くも微笑む為に未だ眠らずに囀っているのだよ。
お前の、其のきれいな高音の為の咽喉の震えに、
緩んでいる夜気が揺らぐ。
お前のうつくしい髪も、揺れ、揺れて
さもあるのだから少女、僕たちはちいさく寄り添いともに肩を揺らして笑おう。
憂う長き夜に絹糸の如き雨が。降る、
かような長き夜に微かにも響くお前と僕の囀りに
雫を垂らす、あの花は秋桜だよ。